水中遺跡調査の方法 - 荒木伸介

現在のところ、あらゆる目的に対応できるような探査機器は存在しない。しかし、いくつかの探査機器を組み合わせることによって、かなり精度の高い遺跡情報をえることができる。

陸上においては、肉眼で広範囲を見渡すことも可能であり、航空写真で地形を撮影し、観察を加えることもできる。しかし、水中では、わずか数メートルの範囲しか目視できない状況にある。したがって肉眼あるいは航空写真に代わるものとして、音波を利用した機器に頼らざるをえない。音波は光波に比較して解像力ははるかに劣るが、全体地形を記録し観察するには、今のところ、これ以外に方法はない。

遺跡や遺物が発見されたからといって、直ちに発掘調査に取りかかれるものではない。遺跡の基礎情報をえるために、第1段階として、1.地上で通常行われる航空写真に代わる調査法として、サイド・スキャンソナー(Side Scan Soner)を用いて全域を映像化し、詳細な海底地形図を作成する。これをもとに検討を加え、2.遺物が集中している可能性が高いと判断された場所では、磁気探査や電磁誘導探査により金属製遺物の分布状況を把握する。この場合、海底の地形のみから判断するのではなく、海流や潮流、風向などの平均的データを参考にしなければならない。現段階では陶磁器類や木製遺物を探査する方法はないが、遺物が最終的に安定埋没する場所には、金属製遺物も混在している可能性が高いと考えられるため、金属製遺物の探索を手がかりにしているのである。3.その結果をふまえ、次にその集中箇所の地層探査のため、サブボトム・プロファイラー(Sub-bottom profiler)を用い、堆積状況を把握し、さらにボーリング調査や試掘調査を実施すれば、具体的な資料をえることができる。4.また、これらの作業位置を正確に記録しておかなければ、再度その場所に到達するのは至難である。そのため、基準点や図根点を設け、精度の高い測量を実施する必要がある。海上面の位置や船の位置を地上から測量することは可能であるが、それを海底に正確に投影する手段としては、音波を利用した機器の今後の開発に期待せざるをえないのが現状である。現在のところ、水面で位置を求め、そこから鉄筋などを垂直に降下させるか、逆に、海底から浮きを上げるなどの原初的方法しかない。しかし、多くの点を設けることによって、かなりの誤差は修正が可能である。

このような第1段階の調査結果を総合的に判断し、本格的調査の実施計画を立案すべきである。しかしながら、探査結果から遺跡の内容や範囲を正確に判定するには、未解決の問題点も残されている。今後、既知のものから未知のものへと、より多くの場で実験的研究を継続的に行い、データを蓄積し、判定のマニュアルを作成していく必要があろう。今回のアンケート調査で所在の明らかになった遺跡については、その基本資料の整備のために、少なくともこの第1段階の調査を行う必要性があるだろう。