プロジェクト開始の経緯
プロジェクトの発端は、2007 年に当研究所が立ち上げた「海底遺跡ミュージアム構想」であった。これは海底遺跡を史跡公園化して公開しようという構想であった。その最初の取り組みとして、日本財団の助成を受け、2007 年8 月に長崎県小値賀島周辺の海底遺跡の調査に合わせた遺跡見学会を実施した。おそらく国内では最初の試みであろうと思う。いくつかの課題も浮かび上がったが、構想の可能性を十分感じることができた試みであった。
そして、次なるステップとして、海底遺跡をはじめとした海に関わる文化遺産の網羅的な調査を行い、情報を収集して、公開して広く水中文化遺産の存在と意義を知ってもらう計画を立てた。まず2008 年度に九州近海を中心とした水中文化遺産の調査を日本財団の助成を受けて行い、当研究所のウエブサイト上に水中文化遺産データベースとして公開した。
次に調査対象を全国の海域に拡大し、日本全体の水中文化遺産を網羅するデータベースの作成の可能性を模索していった。2008 年度の事業を並行しながら、日本財団の担当の高橋秀章氏と毎日のようにメールや電話で打合せや検討を行いながら、プロジェクト案を作成していった。
これまでアジア水中考古学研究所は主に九州北部の海域をフィールドとしてきた。その活動領域を大きく超えることは人材的にも経験的にも不足しており、困難が予想された。そのため、他の団体とも情報交換して協力しながら調査を進めていくことを考えた。具体的な調査成果はもちろんのこと今後の日本全体の水中考古学を考えた時、他団体との垣根を越えた横断的な情報交換は有益であろうと思えた。また、大学をこのプロジェクトに積極的に巻き込むことも考えた。もちろん研究的側面を期待するものであるが、同時に水中考古学に関心をもつ学生や若い研究者が現れることを期待した。
そして、日本財団の助成と全面的な協力を得て、「海の文化遺産総合調査プロジェクト」を2009 年4 月から3年計画で実施することになった。